僕達が見ている「世界」はきっと、歯車のほんの一部分で

 でも回り続けていれば、その先を知ることができると思うから



「その先」に待っている未来が

 どんなものだったとしても





 16.The Gears【Part of the world】





「おい、? どうしたんだよ・・・・・・」

 膝を付いたまま動かないの周りを、カレッジはくるくる回った。

 名前を呼びながら、時々服を引っ掻いたりしてみるが、は何も返さない。

 夜も更けて、だんだん寒さも増してくる。

 カレッジがもう一度口を開きかけた時、後ろから大声がした。

!!」



 カレッジが振り返る。そして、が顔を上げる。

 ジェームズが、走ってきた。

「どうしたの!? 大丈夫!?」

 心配そうにジェームズが顔を覗くと、は気が抜けたような表情で宙を見つめ、やがて頷いた。

「うん・・・・・・大丈夫・・・・・・」

 は呟き、もう一度頷いた。そしてカレッジを抱き上げ、頬を摺り寄せる。

 苦笑いを浮かべた。

「大丈夫」







 ダンブルドアは、共にガーゴイル像の入り口を通って校長室に入った男性に席を勧めた。

「クリストファー、紅茶でいいかな? ノーブルはミルクだったかの?」

 男性のローブの中から、純白の雌猫が一匹、するりと這い出してきた。

 左の耳にサファイアの飾りをつけたその猫は、しゃなりしゃなりと歩き、暖炉の前で丸くなる。

「ミルク以外に何を飲ませるっていうの? 勿論、冷たいやつでいいわ」

 気取ったようにそう言った白猫の頭を、男性は少し乱暴に撫でた。

「贅沢言うんじゃない、ったく・・・・・・」

「まあまあ」

 ダンブルドアは優しく笑いながら、白猫の前にミルクを置き、テーブルの上に紅茶の入ったカップ二つと、ポット一つを置いた。

「クリス、ロゼリア家の薔薇園を、君は見たことがあるかね?」



 黒のローブの男性は、クリストファー・ホグワーツ。

 先代のホグワーツ校後継者にして、の父親である。

 白い猫はクリストファーの使い魔で、名前をノーブルという。



「いいえ、一度も。噂には聞いていますが・・・・・・目にする機会が、遂に無くなってしまいましたね」

 クリストファーは苦笑いをしながら、紅茶を一口飲んだ。

 カップをテーブルに置くと、カタンと小さな音がした。

 神妙な顔をして、クリスは続けた。

「純血主義と、非純血主義・・・・・・わたしには、どうにも理解しづらい世界です」

 ダンブルドアはいつものように柔らかく笑う。

「君はきっとそう言うだろうと思っていたよ。けれど、その世界に身を置く者は少なくないのじゃよ。

現に、君の息子の学友は、その渦中に居ると言っても過言ではない」

「確かに。しかし、本当に理解に苦しみます。子供たちまで巻き込んで、一体何を始めようというのか・・・・・・」

「戦争でも始まるんじゃない?」

 暖炉の前に座ってこちら側に背を向け、ノーブルが呟いた。

 彼女の主はその台詞を予想していたかのように目を閉じ、老人は、目を細めた。

「本当に、そう思うか?」

「さあ、どうでしょうね」

 白猫はツンとすまして答えた。

 ダンブルドアは彼女を見つめ、繰り返し訪ねる。

「本当に、そう思うのかね? ノーブル」

 サファイアにランプの光を反射させながら、ノーブルは立ち上がり、こちらを向いた。

「思うわよ。きっとこの風潮は長く続くもの。誰かが終止符を打つまではね。

生徒同士のたちの悪いの喧嘩に、厳しい教師が止めに入るようなものよ。それなのに止めるべき大人同士が争っているなんて・・・・・・」

 ダンブルドアを見据える青い目は、彼女の怒りを映しているかのように深く輝いた。

「正直、馬鹿らしいわ」

 言いたいことを言い終えて、ノーブルはクリストファーの膝に飛び乗った。そのままそこで丸くなる。

 クリストファーはその体を撫でながら、ダンブルドアを見た。

 いつも穏やかな老人が、険しい表情をしていた。

「・・・・・・では、ロゼリア家襲撃は、その予兆だと?」

「わたしは、そう考えていますが」

「ふむ・・・・・・」

 外で、風の吹いた音がした。

 クリストファーは、黙って一点を見つめるダンブルドアを見ていた。

 カップを口に運ぶ。そして、呟いた。

「ただ・・・・・・」

「ただ?」







 空気が微かに揺れる。その中に、たちは居た。

 ジェームズの透明マントに隠れているのだ。

「すっごい・・・・・・これがあれば、悪戯のバリエーションも増えるねぇ」

 感心するの横でマントを広げながら、ジェームズは俯いていた。

 カレッジがジェームズの肩に乗る。

「どうしたの? ジェームズ」

 は足を止めた。自然とジェームズも立ち止まる。

「・・・・・・ピーターに、謝らなきゃなぁ・・・・・・」

 頷くを見て、カレッジはふ、と飛び上がり、そして消えた。

「うん、そうだね」

「僕は別に、ピーターのことが嫌いなわけじゃなくてさ」

「うん」

 二人は再び歩き始めた。

「じれったくて、イライラしちゃったんだ」

「うん、分かってるよ」

「ピーター、許してくれるかなぁ」

 は、綺麗に微笑んだ。

「うん、絶対」

 その確信に満ちた声に、ジェームズはニッと笑い返した。







 ピーターの枕元に、カレッジは音も無く降り立った。

 泣き疲れて眠る彼の耳元で、カレッジは丸くなる。

「そんなに酷いことを、言われたわけじゃないだろう? ピーター」

 勿論、答えは無い。

 涙の筋を尻尾で撫でると、ピーターは少し身じろぎして、それからふにゃっと微笑んだ。

 カレッジは苦笑いを浮かべる。

「何の夢見てんだか・・・・・・」

 すくっと起き上がり、窓のところまで歩く。カーテンを開ければ、冷気が毛皮を撫でた。

 耳を澄ませるかのように、カレッジは目を閉じた。

「・・・・・・ノーブルが、来てるな」







「ただ不思議なのは、何故、人の絶えたロゼリア家が襲われたか。

非純血主義に衝撃を与えたいのなら、を襲うべきでしょう。それが何故・・・・・・」

 クリストファーの言葉を聞いて、ダンブルドアは小鼻を膨らませた。

 ノーブルがそれを見咎め、片目を開ける。

「何か知っていそうね、アルバス」

 彼女をちらりと見たダンブルドアは、鼻で溜め息をついた。

 そしてクリストファーを正面から見る。

「君は、シャロン・ロゼリアを知っているか?」

「シャロン・・・・・・ああ、あの薔薇水晶の。彼女が何か?」

「一部の者しか知らないことじゃが、実は、彼女は家に嫁いでいる」

 クリストファーは、軽く目を見開いた。

に? 知らなかった・・・・・・では、あのお嬢さんは」

 紅茶を啜って頷くダンブルドア。

「そう、シャロンの娘じゃ。まあ要するに、ロゼリアにはと関わりがあるわけじゃ」

そしてシャロンは、彼の想い人じゃった」

「彼? ウィリアム殿のことですか?」

 ノーブルは少し顔を上げ、クリストファーは眉根を寄せる。

 立ち上がったダンブルドアは、不死鳥フォークスの止まり木に手を伸ばした。

 鳥は、居ない。

「ウィリアム・は、彼の一番の、いや、唯一の友であったかもしれん。

学生時代は、ウィリアムとシャロンと彼と・・・・・・あの三人組みは一際目立っていたのう。

何故今敵対しているのか、わしには分からんのじゃ」

 言葉を濁すダンブルドアに、ノーブルが噛み付くように言った。

「ちょっと、はっきりしてちょうだい。誰なの? 彼って」



 ほんの少しの間、誰も何も喋らなかった。



「世間に知られている名は、ヴォルデモート卿。

純血主義勢力の、指導者とも言うべき存在じゃよ」



 ダンブルドアは、目を伏せて、呟いた。

「あんなに仲が良かったウィリアムとヴォルデモートは、ウィリアムの結婚と同時期に縁を切ったように見える。

それにシャロンが死んでからのウィリアムは、何かが変わってしまったようじゃった。

どうして二人は・・・・・・まるで憎みあうかのように・・・・・・」







 カレッジは、目を開けた。

 丁度そのとき、部屋の扉が開いた。

「よう、おかえり」

 空気が揺れ、バサッとマントを脱ぐ音がした。

 とジェームズが、にっこり笑う。

「ただいま」

「ピーターは?」

 ジェームズの問いに、カレッジは尻尾を軽く振った。

「寝てるぜ」

 二人は顔を見合わせ、苦笑する。

 ローブを脱ぎ捨てて、二人はそれぞれのベットにダイブした。

「まぁ、起きたら謝ればいいさ」

 カレッジものベットに潜り込む。

 ジェームズは笑った。

「そうだね。あ、、カレッジ! ちょっと聞いてよ」

「どうしたの?」

「この学校って、いくつか隠れた通り道があると思うんだけど・・・・・・どう?」

 突然のことに目を丸くして、とカレッジは目を見合わせた。

 何せ校長室への隠された入り口を見つけたのは、つい先程のことなのだ。なんとタイムリーな話題だろう。

「え、っと・・・・・・それはなんと言うか・・・・・・多分あると思うけど、どうして?」

 さり気なく目を逸らしながらは逆に聞き返した。

 そんな彼の様子を見て、ジェームズはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 とカレッジはその勝ち誇ったような顔に、思わず身を震わせた。

「なるほどね・・・・・・やっぱりあるんだ。

さっきね、校長先生と男の人が、銅像の近くで消えたんだ。だから、そうなのかなぁ〜って思ってさ」

「校長先生? うわ・・・・・・ジェームズ、僕もそこ通ったよ」

「本当!?」

 興奮したジェームズの声に丁度被るように、カレッジは息を吐いた。

「確かに、抜け道はあるみたいだけど、ジェームズ、それを見つけてどうするんだ」

 ジェームズはきょとんとして、その後目をパチパチと瞬かせた。

「どうって・・・・・・そーりゃあ勿論、悪戯に使うに決まってるじゃないか」

「やっぱり・・・・・・」

 やれやれ、と頭を振るカレッジ。

 は逆に目を輝かせた。

「先生達に見つかる回数もグンと減るよね」

「そうなんだよ。だからさ、休暇が明けたら皆で探そうよ! ね?」

 楽しそうに、ジェームズは言う。

「うん! 絶対に、ね」

 は力強く頷いた。

 二人は笑い合って、それからおやすみした。

 灯りを消し、ベットにもぐる。





 その夜聞こえたのは、「学校はアスレチックじゃない!」というカレッジの寝言だけだった。





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